【複素解析学】シュヴァルツの補題とは? その主張・証明から応用まで解説

こんにちは!半沢です!

今回の記事では複素解析学におけるシュヴァルツの補題(Schwarz lemma)について解説したいと思います。

シュヴァルツの補題は複素関数の正則性の一面が垣間見れる,面白い補題です。

またシュヴァルツの補題は円板上の解析的自己同型は一次分数変換であることを証明するのに役立ちます。

※このことはこちらの記事で解説しています。

それではシュヴァルツの補題を解説していきましょう。

シュヴァルツの補題(Schwarz lemma)

まずはシュヴァルツの補題の主張を確認していきましょう。

主張

シュヴァルツの補題

\(\Delta(1)\subset \mathbb{C}\,\)上の正則複素関数\(\,f(z)\,\)は\(\,f(0)=0\,\)かつ,\(|f(z)|\leq 1 \quad(\,\forall z\in \Delta(1)\,)\)であるとすると,次の\(\,2\,\)条件が成り立つ。

\((\,\mathrm{i}\,)\) \(|f(z)|\leq |z| \quad(\,\forall z\in \Delta(1)\,)\)
\((\mathrm{ii})\) \(|f'(0)|\leq 1\)

さらに\((\,\mathrm{i}\,)\)で等号がある\(\,z_0\not=0\,\)で成り立つか,\((\mathrm{ii})\)で等号が成立する必要十分条件は
\(\,f(z)=cz\quad(c\,\)は\(\,|c|=1\,\)となる複素定数\()\)となることである。

※\(\,\Delta(1)\,\)は原点を中心とする半径\(\,1\,\)の開円板のことです。

またこの補題の一般形として次のことも成り立ちます。

シュヴァルツの補題(一般形)

\(\Delta(R)\subset \mathbb{C}\,\)上の正則複素関数\(\,f(z)\,\)は\(\,f(0)=0\,\)かつ,\(|f(z)|\leq M \quad(\,\forall z\in \Delta(R)\,)\)であるとすると,次の\(\,2\,\)条件が成り立つ。

\((\,\mathrm{i}\,)\) \(|f(z)|\leq \dfrac{M}{R}|z| \quad(\,\forall z\in \Delta(R)\,)\)

\((\mathrm{ii})\) \(|f'(0)|\leq \dfrac{M}{R}\)

さらに\((\,\mathrm{i}\,)\)で等号がある\(\,z_0\not=0\,\)で成り立つか,\((\mathrm{ii})\)で等号が成立する必要十分条件は

\(\,f(z)=cz\quad(c\,\)は\(\,|c|=\dfrac{M}{R}\,\)となる複素定数\()\)となることである。

この主張はイメージ的には
\(\Delta(R)\,\)上で有界な複素関数は,正則性を保つために線形\(\,(f(z)=cz)\,\)以上に急激に増加してはいけないという感じですかね。

このシュヴァルツの補題は冒頭でも述べたように
円板状の解析的自己同形は一次分数変換であることを証明するの役立ちます。(こちらの記事に書いてます)

一般形の証明は,普通のシュヴァルツの補題を認めれば,\(\,\Delta(1)\,\)上の複素関数

\(g(z)=\dfrac{1}{M}f(Rz)\)

に普通のシュヴァルツの補題を適用することで示せます。

そこで次節では普通のシュヴァルツの補題の証明を見ていきましょう。

証明

それではシュヴァルツの補題の証明を行っていきましょう。

様々な証明方法を比較した結果,“高校数学の美しい物語”さんに載っていた証明が一番厳密かつ,分かりやすいと思ったので,そちらの証明に従います。

[証明] まず\(\,f(z)\,\)の正則性と\(\,f(0)=0\,\)より\(\,\Delta(1)\,\)上で\(\,\displaystyle f(z)=\sum_{n=1}^{\infty}a_nz^n\,\)と展開できる。

そこで\(\Delta(1)\)上の関数\(\,g(z)\,\)を以下のように定義する。

\(\displaystyle g(z)=\sum_{n=1}^{\infty}a_nz^{n-1}\biggl(=\dfrac{f(z)}{z}\biggr)\)

※最後の\(\,\dfrac{f(z)}{z}\,\)は\(\,z=0\,\)での値を定義することができないので,あくまで証明を分かりやすくするための形式的表記です。もちろん\(\,z\not=0\,\)のときはそのまま\(\,\dfrac{f(z)}{z}\,\)と考えて良いです。

\(g(z)\,\)は明らかに\(\,\Delta(1)\,\)上正則である。

このとき\((\,\mathrm{i}\,)\)を示すには,\(\,|g(z)|\leq 1\quad(z\in \Delta(1))\,\)であることを示せばよい。

そこで任意の正の実数\(\,r\lt 1\,\)を取ってきて。

\(\overline{\Delta(r)}\subset \Delta(1)\,\)における\(\,|g(z)|\,\)の振る舞いを考えよう。

\(\overline{\Delta(r)}\,\)はコンパクト集合なので最大値の定理から,\(\,\overline{\Delta(r)}\,\)上\(\,|g(z)|\,\)は最大値をとる。

さらに最大値の原理から境界\(\,\partial(\Delta(r))\,\)上でもその最大値をとる。

故に\(\,z\in \overline{\Delta(r)}\,\)において,\(\,|f(z)|\leq 1\,\)より

\(\displaystyle |g(z)|\leq \max_{|z|=r}\{|g(z)|\}=\max_{|z|=r}\biggl\{\dfrac{|f(z)|}{r}\biggr\}\leq \dfrac{1}{r}\)

\(r\to 1\,\)とすることで\(\,|g(z)|\leq 1\quad(z\in \Delta(1))\,\)が分かり,\((\,\mathrm{i}\,)\)は示された。

\((\mathrm{ii})\,\)については,今示した\(\,|g(z)|\leq 1\,\)を\(\,z=0\,\)において考えることで

\(|f'(0)|=|g(0)|\leq 1\)となり,示すことができる。

また\((\,\mathrm{i}\,)\)で等号がある\(\,z_0\not=0\,\)で成り立つか,\((\mathrm{ii})\)で等号が成立すると,\(\,|g(z)|\leq 1\,\)は\(\,\Delta(1)\,\)上で最大値\(\,1\,\)を取ることが分かる。

再び最大値の原理より\(\,|c|=1\,\)となる複素定数\(\,c\,\)を用いて
\(g(z)=c\Leftrightarrow f(z)=cz\)となる。

逆に関しては明らかなので,以上で題意は示された。\(\quad\square\)

まとめ

今回の記事ではシュヴァルツの補題を解説いたしました。

正則変換の記事ではシュバルツの補題を用いて,円板上の解析的自己同型が一次分数変換であることを示しています。

応用が気になる方は,ぜひそちらの記事も読んでみてください。

これ以外のシュヴァルツの補題の面白い応用を知っている方はぜひ教えてください。

またもし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#サイエンティクスでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

参考図書

  • \([1]\) “最大値の原理とシュワルツの補題”.高校数学の美しい物語.2022-10-19更新.https://manabitimes.jp/math/2683.2024-08-31参照
  • \([2]\) 野田潤次郎.”数学選書12 複素解析概論”.第6版.裳華房.1993出版.p.168-169