【無理数論】無理数の判定法 不等式編 証明・イメージ・ネイピア数の無理性を解説

こんにちは!半沢です!

今回の記事では不等式による無理数の判定法について解説します。

判定方法やその証明とイメージ,

応用例としてネイピア数\(\,e\,\)が無理数であることの証明などについて取り扱いと思います。

ぜひ読んでいってください。

無理数の判定法

主張

不等式による無理数の判定法
実数\(\,\alpha\,\)について次は同値である。

\(\,\phantom{\Leftrightarrow}\)\(\alpha\,\)は無理数
\(\,\Leftrightarrow\,\)任意の正定数\(\,c\gt 0\,\)に対して,
不等式
\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggr|\lt \dfrac{c}{q}\,\)
を満たすような,ある有理数\(\,\dfrac{p}{q}\not=\alpha\,\,(q\gt 0)\,\)が存在する。

一見複雑な条件に見えますが,実数を有理数で近似するという考え方に則っています。

その考え方はイメージで解説しているので,必要であれば読んでください。

また上の条件不等式から下の系1が言えます。

系1
実数\(\,\alpha\,\)に対して
\(\,0\lt |q_n\alpha-p_n|\to 0\quad(n\to 0)\,\)を満たす整数列\(\,p_n,q_n\,\)が存在すれば,\(\,\alpha\,\)は無理数である。

条件より\(\,q_n\not=0\,\)なので,\(\,q_n\,\)で割ることで,判定法の\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p_n}{q_n}\biggr|\,\)の形になることと,\(|q_n\alpha-p_n|\to 0\quad(n\to 0)\,\)から,正数\(\,c\,\)に対して,不等式を満たす有理数\(\,\tfrac{p}{q}\,\)の存在が言えることから,証明は完了します。

応用例

判定法の応用例として,ネイピア数\(\,e\,\)が無理数であることを証明しましょう。

ネイピア数\(\,e\,\)はマクローリン展開から

\(\,e=1+\dfrac{1}{1!}+\dfrac{1}{2!}+\dfrac{1}{3!}+\cdots=\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{1}{k!}\,\)

と表示できることを利用すると,

\(\,0\lt n!e-n!\displaystyle\sum_{k=0}^{n}\dfrac{1}{k!}=n!\sum_{k=n+1}^{\infty}\dfrac{1}{k!}\,\)

となり,ここで最後の和は

と評価できるので,

\(\,0\lt \biggl|n!e-n!\displaystyle\sum_{k=0}^{n}\dfrac{1}{k!}\biggr|\lt \dfrac{1}{n}\to 0\quad(n\to \infty)\,\)

となります。

そこで整数列\(\,p_n,q_n\,\)を

\(\,p_n\coloneqq n!\displaystyle\sum_{k=0}^{n}\dfrac{1}{k!}=n!+\cdots+1,\,\)

\(\,q_n\coloneqq n!\,\)

と定めれば

\(\,0\lt |q_ne-p_n|\to 0\quad(n\to 0)\,\)

となり,系1よりネイピア数が無理数であることが言えます。

このように良い感じの級数表示を持つ実数なら,無理数であることを簡単に示せる場合があります。

この他の例として,リュービル数というかなり人工的な数の仲間である\(\,\displaystyle \sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{1}{2^{k!}}\,\)も,無理数であることを同様に系1を使うことで示せます(超越数の記事で取り扱えたらと思います)。

また\(\,\sqrt{2}\,\)などの無理数も連分数展開を用いれば,系1は使いませんが,不等式の判定法により示すこともできます。

証明

まず簡単な方の

\(\alpha\,\)が無理数\(\,\Leftarrow\,\)任意の正定数\(\,c\gt 0\,\)に対して,不等式\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggr|\lt \dfrac{c}{q}\,\)を満たすような,ある有理数\(\,\dfrac{p}{q}\not=\alpha\,\,(q\gt 0)\,\)が存在する

ことを示していきましょう。

対偶である

\(\alpha\,\)が有理数\(\,\Rightarrow\,\)ある正定数\(\,c\gt 0\,\)が存在して,不等式\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggr|\geq\dfrac{c}{q}\,\)が,すべての有理数\(\,\dfrac{p}{q}\not=\alpha\,\,(q\gt 0)\,\)で成り立つ

ことを証明すれば良いですね。

\(\alpha\,\)は有理数なので,整数\(\,a,b\,\,(b>0)\,\)を用いて\(\,\alpha=\dfrac{a}{b}\,\)と書けます。

このとき,任意の有理数\(\,\dfrac{p}{q}\not=\alpha\,\,(q\gt 0)\,\)について,

\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggr|=\dfrac{|aq-bp|}{bq}\,\)

となります。

ここで\(\,aq-bp\,\)は整数で,さらに\(\dfrac{p}{q}\not=\alpha=\dfrac{a}{b}\)なので,\(\,0\,\)になることはありません。

よって\(\,|aq-bp|\geq 1\,\)が成り立ち,先ほどの式は

\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggr|\geq \dfrac{1}{qb}=\dfrac{\tfrac{1}{b}}{q}\,\)

となります。

そこで\(\,c=\dfrac{1}{b}\,\)とおけば,\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggr|\geq\dfrac{c}{q}\,\)の形になり,\(\,\Leftarrow\,\)は示されました。

続いて,逆の

\(\alpha\,\)が無理数\(\,\Rightarrow\,\)任意の正定数\(\,c\gt 0\,\)に対して,不等式\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggr|\lt \dfrac{c}{q}\,\)を満たすような,ある有理数\(\,\dfrac{p}{q}\not=\alpha\,\,(q\gt 0)\,\)が存在する

を示していきましょう。

まず任意の正定数\(\,c\gt 0\,\)にい対して,\(\,\dfrac{1}{N}\lt c\,\)となる自然数\(\,N\,\)を取ってきます。

この\(\,N\,\)で区間\(\,[0,1)\,\)を\(\,\bigl[0,\tfrac{1}{N}\bigr),\cdots,\bigl[\tfrac{N-1}{N},1\bigr)\,\)と\(\,N\,\)等分します。

実数\(\,x\,\)の小数部分を\(\,\{x\}\coloneqq x-[x]\,\)で表すことにすると(\(\,[x]\,\)は\(\,x\,\)以下の最小の整数を表す,つまりガウス記号),

\(N+1\,\)個の数\(\,\{0\alpha\},\{1\alpha\},\cdots,\{N\alpha\}\,\)は鳩ノ巣原理から,そのうちの,ある二つは同じ区間に属します。

よって,その二つを\(\,\{k_1\alpha\},\{k_2\alpha\}\,\,(k_1,k_2=0,\cdots,N,\,\,k_1\gt k_2)\,\)と書くと

\(|\{k_1\alpha\}-\{k_2\alpha\}|\lt \dfrac{1}{N}\)

となります。

ここで左辺について\(\,\{k_1\alpha\}-\{k_2\alpha\}=(k_1-k_2)\alpha- ([k_1\alpha]-[k_2\alpha])\,\)であるので,

整数\(\,p,q\,\)を\(\,p\coloneqq [k_1\alpha]-[k_2\alpha],\,\,q\coloneqq k_1-k_2\gt 0\,\)と定めると,先ほどの式は

\(|q\alpha-p|\lt \dfrac{1}{N}\lt c\)

となり,両辺を\(\,q\gt 0\,\)で割って,\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggl|\lt \dfrac{c}{q}\,\)が得られました。

最後に\(\,\alpha\,\)が無理数であることから,\(\,\alpha\not=\dfrac{p}{q}\,\)であるので,この有理数\(\,\dfrac{p}{q}\,\)は条件を満たしており,題意は示されました。\(\quad\square\)

※逆の証明で\(\,\alpha\,\)が無理数であるという条件を使っているのは,実は上の一行だけです。

実際,\(\,\alpha\,\)が有理数で\(\,\dfrac{p}{q}\not=\alpha\,\)という条件を課さないのであれば,不等式を満たす有理数として自分自身を取れば良いからです。

またこれは余談ですが,逆の証明と同様の発想で,クロネッカーの稠密定理の弱い形を示すことができます。希望があれば別の記事で解説したいと思ます。

イメージ

ここでは,なぜこのように無理数の判定を行えるのかのイメージを解説していきます。

この判定法は,実数\(\,\alpha\,\)を自分自身以外の有理数\(\,\dfrac{p}{q}\not=\alpha\,\)で近似するという考え方に基づいています。

もし\(\,\alpha\,\)が有理数として,\(\,\alpha=\dfrac{a}{b}\,\)と表されているときを考えましょう。

分数の分母を数直線を分割したときの目盛りと考えましょう。

このとき\(\,\dfrac{a}{b},\dfrac{p}{q}\,\)が目盛りの上に乗るような,目盛りを考えると分かりやすいですね。

つまり通分して\(\,\dfrac{aq}{bq},\dfrac{bp}{bq}\,\)とできるので,目盛り\(\,\dfrac{1}{bq}\,\)で数直線を捉えると良いでしょう。

もちろん目盛りには幅\(\,\dfrac{1}{bq}\,\)があるため,\(\,\alpha\,\)と被っていない目盛りで\(\,\alpha\,\)にどれだけ近づこうとも,その距離は\(\,\dfrac{1}{bq}\,\)を超えることはできません。

これはつまり,どれだけ有理数\(\,\dfrac{p}{q}\not=\alpha\,\)によって,\(\,\alpha\,\)に近似しようとも,限界\(\,\dfrac{1}{bq}\,\)があるということになります。

これを\(\,c=\dfrac{1}{b}\,\)とおいて,数式で表すと,不等式

\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggr|\geq \dfrac{1}{bq}=\dfrac{c}{q}\,\)

となりますね。実際に上の証明でも\(\,c=\dfrac{1}{b}\,\)と定めています。

反対に\(\,\alpha\,\)が無理数の場合,有理数\(\,\dfrac{p}{q}\,\)で近似をしようとすると,

無理数なので,どんな目盛りを用いても,目盛りの真上に\(\,\alpha\,\)が位置することはありません。

そのため有理数の場合と異なり,\(\,\alpha\,\)と\(\dfrac{p}{q}\,\)の限界がなくなり,不等式

\(\,\biggl|\alpha-\dfrac{p}{q}\biggr|\lt \dfrac{c}{q}\,\)

を満たすような,良い近似有理数\(\,\dfrac{p}{q}\,\)が得られるというわけです。

このように\(\,\alpha\,\)を有理数で近似するときの違いから無理数の判定を行っているというわけです。

この考え方はのちに拡張され,超越数の判定へとつながっていきます。このことについては改めて別の記事にしたいと思います。

まとめ

今回の記事では不等式による無理数の判定法を解説いたしました。

超越数の判定はこの判定法を拡張することで得られるので,改めて別の記事で解説できたらと思います。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#サイエンティクスでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

参考図書

  • \([1]\) 塩川宇賢.無理数と超越数 [POD版].第1版.1999出版.p.1-2