【超越数論】超越的べき級数とは? 定義や代数的数上で値が代数的数となるような超越的べき級数も紹介

こんにちは!半沢です!

今回の記事では超越数論における超越的べき級数(transcendental power series)について解説します。

超越数論では形式的べき級数の超越性を用いて,その値の超越性を証明するので,かなり重要な概念です。

超越的べき級数だが代数的数上の値は代数的数となる,面白いべき級数関数の紹介もしています。

読んでいただけると嬉しいです。

定義

定義 \(\,K\,\)を体とする。
\(K\,\)上の形式的べき級数\(\,f(x)\in K[[x]]\,\)について,
少なくとも一つは\(\,0\,\)でない\(\,K\,\)上の多項式\(\,a_0(x),\ldots,a_n(x)\in K[x]\,\)が存在して,

\(a_n(x)f(x)^n+a_{n-1}(x)f(x)^{n-1}+\cdots+a_0(x)=0\)
が成り立つとき\(\,f(x)\,\)は\(\,K(x)\,\)上代数的という。
そうでないとき\(\,K(x)\,\)上超越的という。

\(K\,\)は任意の体で考えられますが,このブログでは超越数論の文脈で考えるため,\(\,K\,\)として\(\,\mathbb{Q}\,\)といった代数体や\(\,\mathbb{C}\,\)の場合を想定しています。

形式的べき級数の超越性を考える動機を解説しましょう。

超越数論では級数によって表される数が超越数になるのかも興味の対象の一つです。

例えば代数的数\(\,\alpha\,\,(0\lt |\alpha|\lt 1)\,\)に対して,級数

\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\alpha^{d^{n}}\)

は超越数になることは示されています(別の記事で証明したいです)。

このような級数の超越性は,元の形式的べき級数の超越性から導出される場合があります。

上の級数の超越性の証明も,\(\,\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}z^{d^{n}}\,\)が\(\,\mathbb{C}(x)\,\)上超越的であることを利用しています。

これが形式的べき級数の超越性を考える動機の一つです。

具体例

証明は省略しますが,前章で取り上げた\(\,\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}z^{d^{n}}\,\)は\(\,\mathbb{C}(x)\,\)上超越的です。

また\(\,d\,\)を\(\,2\,\)以上の整数とすると,\(\,\displaystyle \prod_{k=1}^{\infty}(1-x^{d^{k}})\,\)も\(\,\mathbb{C}(x)\,\)上超越的です。

こちらは補遺に証明を載せているので,余裕のある方は確かめてみてください。

ここで紹介した具体例はマーラー関数と呼ばれるものの仲間で,簡単な条件を満たせば代数的数\(\,\alpha\,\)に対し,\(\,f(\alpha)\,\)が超越数になることが示されています。

今後マーラー関数の記事や他の具体例を,証明ありで紹介していけたらと考えているので,お待ちください。

性質

この章では超越的べき級数の性質を確認していきます。

後半の二節では\(\,\alpha\,\)を代数的数として

「\(f(x)\,\)は\(\,\mathbb{Q}(x)\,\)上代数的」

「\(f(\alpha)\,\)は代数的数」

という二つの条件の関係について調べています。

\(\Downarrow\,\)は成り立ちますが,\(\,\Uparrow\,\)は一般には成り立たないことを説明しています。

しかし\(\,\Uparrow\,\)も,具体例で紹介したマーラー関数のように条件を課せば成り立つときもあります。

体の拡大に関する性質

体\(\,L\subset K\)について,\(\,f(x)\in K[[x]]\,\)とすると,
\(\phantom{\Leftrightarrow}f(x)\,\)は\(\,L(x)\,\)上超越的である。
\(\Leftrightarrow f(x)\,\)は\(\,K(x)\,\)上超越的である。

\(f(x)\,\)の係数体まで体を縮小しても,超越性は保たれるということですね。

\(\Rightarrow\,\)は定義より明らかですので,\(\,\Leftarrow\,\)を示しましょう。

対偶を取って「\(\,L(x)\,\)上代数的\(\,\Rightarrow K(x)\,\)上代数的」を示せばいいですね。

\(f(x)\,\)が\(\,L(x)\,\)上代数的なとき

\(\,a_n(x)f(x)^n+a_{n-1}(x)f(x)^{n-1}+\cdots+a_0(x)=0\,\,(a_i(x)\in L[x])\,\)

が成り立ち,\(\,a_0(x),\ldots,a_n(x)\,\)の少なくとも一つは\(\,0\,\)ではありません。

よって\(\,a_0(x),\ldots,a_n(x)\,\)の係数の有限集合から,\(\,K\,\)上線形独立な最大部分集合\(\,\{b_1,\ldots,b_m\}\,\)を取ってくることができます。

その最大性から\(\,a_0(x),\ldots,a_n(x)\,\)の係数は\(\,b_1,\ldots,b_m\,\)の\(\,K\,\)上線形結合で表すことができるので,

\(\,a_i(x)=\displaystyle\sum_{j=1}^{m} a_{ij}(x)b_j,\,\,(a_{ij}(x)\in K[x])\,\)

と書き表せます。

よって\(\,a_n(x)f(x)^n+a_{n-1}(x)f(x)^{n-1}+\cdots+a_0(x)=0\,\)から

\(\,\displaystyle \sum_{j=1}^{m}(a_{nj}(x)f(x)^n+\cdots+a_{0j}(x))b_j=0\,\)

を得ます。

ここで\(\,\displaystyle \sum_{j=1}^{m}(a_{nj}(x)f(x)^n+\cdots+a_{0j}(x))b_j\,\)の各\(\,z\,\)のべきの係数は,\(\,b_1,\ldots,b_m\,\)の\(\,K\,\)上線形結合の形になっており,さらにそれらが\(\,0\,\)に等しいので,線形独立性から

\(\,\displaystyle a_{nj}(x)f(x)^n+\cdots+a_{0j}(x)=0\,\)

が各\(\,j\,\)について導けます。

\(a_0(x),\ldots,a_n(x)\,\)の少なくとも一つは\(\,0\,\)でないので,\(\,a_{ij}(x)\in K[x]\,\)の少なくとも一つは\(\,0\,\)ではありません。

これは\(\,f(x)\,\)が\(\,K(x)\,\)上代数的であることを意味するので,題意は示されました。\(\quad\square\)

\(f(x)\,\)は\(\,\mathbb{Q}(x)\,\)上代数的\(\,\Rightarrow\,\)\(f(\alpha)\,\)は代数的数

\(f(x)\in \mathbb{Q}[[x]]\)とする。
\(f(x)\,\)が\(\,\mathbb{Q}(x)\,\)上代数的で,代数的数\(\,\alpha\,\)で絶対収束するとき,\(\,f(\alpha)\,\)は代数的数である。

上の命題を証明していきましょう。

\(f(x)\,\)は\(\,\mathbb{Q}(x)\,\)上代数的なので,少なくとも一つ(それを\(\,a_i(x)\,\)とします)は\(\,0\,\)でない\(\,\mathbb{Q}\,\)上の多項式\(\,a_0(x),\ldots,a_n(x)\in \mathbb{Q}[x]\,\)

\(a_n(x)f(x)^n+a_{n-1}(x)f(x)^{n-1}+\cdots+a_0(x)=0\)

が成り立ちます。

絶対収束するので\(\,\alpha\,\)を代入すると,関係式

\(a_n(\alpha)f(\alpha)^n+a_{n-1}(\alpha)f(\alpha)^{n-1}+\cdots+a_0(\alpha)=0\)

が得られます。

この\(\,a_0(x),\ldots,a_n(x)\,\)の少なくとも一つは\(\,\alpha\,\)の最小多項式で割り切れないとしても一般性を失いません。

\(\alpha\,\)の共役を\(\,\alpha_1,\ldots,\alpha_m\,\)とおいて,多項式

\(\,P(x)\coloneqq\displaystyle\prod_{k=1}^{m} (a_n(\alpha_k)x^n+a_{n-1}(\alpha_k)x^{n-1}+\cdots+a_0(\alpha_k))\,\)

を考えましょう。

このときまず\(\,P(x)\not=0\,\)です。

なぜなら各因子の係数\(\,a_i(\alpha_k)\,\)について,一つの\(\,k\,\)についてでも\(\,a_i(\alpha_k)=0\,\)となってしまうとすると,共役の入れ替えによって\(\,a_i(x)\in \mathbb{Q}[x]\,\)は不変であることから,\(\,a_i(\alpha_1)=\cdots=a_i(\alpha_m)\,\)が成り立ち,これは\(\,a_i\,\)が\(\,\alpha\,\)の最小多項式で割り切れないことに矛盾するからです。

同様に\(\,P(x)\in \mathbb{Q}[x]\,\)であることが共役の入れ替えの不変性を考えることにより言えます。

そして\(\,a_n(\alpha)f(\alpha)^n+a_{n-1}(\alpha)f(\alpha)^{n-1}+\cdots+a_0(\alpha)=0\,\)より,\(\,P(f(\alpha))=0\,\)であるので\(\,f(\alpha)\,\)は代数的数となります。\(\quad\square\)

「\(f(x)\,\)は\(\,\mathbb{Q}(x)\,\)上超越的\(\,\Rightarrow\,\)\(f(\alpha)\,\)は超越数」の強い反例

この節では次のような性質を持つ形式的べき級数\(\,f(x)\in \mathbb{Q}[[x]]\,\)を構成することを目的としています。

\(f(x)\in \mathbb{Q}[[x]]\,\)で次のような性質を持つものが存在する。
\(f(x)\,\)は\(\,\mathbb{Q}(x)\,\)上超越的であり複素平面全体で収束するが,代数的数上の値は代数的数になる。

代数的数体\(\,\overline{\mathbb{Q}}\,\)は無限集合なので,無限個の点上で\(\,f(x)\,\)は代数的数になります。

そのため「\(f(x)\,\)は\(\,\mathbb{Q}(x)\,\)上超越的\(\,\Rightarrow\,\)\(f(\alpha)\,\)は超越数」という命題に対して,強い反例になっていることが分かると思います。

さてこれを証明を通して確認していきましょう。かなり面白い証明です。

まずは\(\,f(x)\,\)を構成していきましょう。

定数でない整数係数の多項式全体の集合は可算集合ですので,\(\,p_1(x),p_2(x),\ldots\,\)と並べることができます。

これらを用いて

\(Q_{k}(x)\coloneqq \displaystyle\prod_{i=1}^{k}p_i(x),\)

\(a_k\coloneqq\dfrac{1}{((k!+1)\deg Q_k)!|Q_k|}\)

とおきます。ただし\(\,|Q_k|\,\)は\(\,Q_k(x)\,\)の係数の最大値を表します。

これらを用いて\(\,f(x)\,\)を

\(f(x)\coloneqq \displaystyle \sum_{k=1}^{\infty}a_kQ_k(x)x^{k!\deg Q_k}\)

と定義し,これが条件を満たすことを証明していきましょう。

まず

\(\deg(Q_k(x)x^{k!\deg Q_k})=(k!+1)\deg Q_k\)

\(\mathrm{ord}(Q_{k+1}(x)x^{(k+1)!\deg Q_{k+1}})\geq(k+1)!\deg Q_{k+1}\)

で,\(\,\dfrac{Q_{k+1}(x)}{Q_k(x)}=p_{k+1}(x)\,\)の次数は少なくとも\(\,1\,\)以上なので,\(\,\dfrac{\deg Q_{k+1}}{\deg Q_k}\gt 1\,\)より

\(\dfrac{\mathrm{ord}(Q_{k+1}(x)x^{(k+1)!\deg Q_{k+1}})}{\deg(Q_k(x)x^{k!\deg Q_k})}\gt (k+1)\dfrac{k!}{k!+1}\geq \dfrac{k+1}{2}\geq 1\)

となります。

途中\(\,\dfrac{x}{x+1}\,\)は\(\,x\gt 0\,\)において単調増加で,その自然数における最小値が\(\,\dfrac{1}{2}\,\)であることを利用しました。

よって

\(\mathrm{ord}(Q_{k+1}(x)x^{(k+1)!\deg Q_{k+1}})\gt \deg(Q_k(x)x^{k!\deg Q_k})\)

であるので,\(\,a_kQ_k(x)x^{k!\deg Q_k}\,\)と\(\,a_{k+1}Q_{k+1}(x)x^{(k+1)!\deg Q_{k+1}}\,\)は同じ次数の項を含みません。

そのため\(\,f(x)\,\)の\(\,x^i\,\)の係数\(\,c_i\,\)は,\(\,0\,\)もしくは\(\,i\leq (k!+1)\deg Q_k\,\)を満たす,ある\(\,k\,\)についての\(\,a_kQ_k(x)x^{k!\deg Q_k}\,\)の係数になります。

よって\(\,c_i\,\)の絶対値を評価すると

\(|c_i|\leq |a_k||Q_k|=\dfrac{1}{((k!+1)\deg Q_k)!}\leq \dfrac{1}{i!}\)

つまり複素平面全体で収束する指数関数

\(e^x=1+\dfrac{1}{1!}x+\dfrac{1}{2!}+\cdots\)

の\(\,x^i\,\)の係数の絶対値以下なので,\(\,f(x)\,\)は複素平面全体で収束することが言えました。

次に\(\,f(x)\,\)の\(\,\alpha\in\overline{\mathbb{Q}}\,\)上の値を見てみましょう。

\(\alpha\,\)は代数的数なので,\(\,p_i(\alpha)=0\,\)となる\(\,i\,\)が存在します。

\(k\geq i\,\)なら,その多項式を因数に持つようになるので\(\,Q_k(\alpha)=0\,\)です。

つまり

\(\,f(\alpha)=\displaystyle \sum_{k=1}^{i-1}a_kQ_k(\alpha)\alpha^{k!\deg Q_k}\,\)

と代数的数の有限和で表され\(\,f(\alpha)\in\overline{\mathbb{Q}}\,\)となります。

つまり\(\,f(x)\,\)の代数的数上の値は代数的数になることが言えました。

最後に\(\,f(x)\,\)の超越性を確認していきましょう。

\(f(x)\,\)が,任意の多項式\(\,g_n(x)(\not=0),\ldots,g_0(x)\in\mathbb{Q}[x]\,\)に対して,

\(\,g_n(x)f(x)^n+g_{n-1}(x)f(x)^{n-1}+\cdots+g_0(x)\not=0\,\)

となることを示せば良いですね。

ここで第\(\,m\,\)部分和\(\,A_m(x)\,\)

\(\,A_m(x)\coloneqq \displaystyle \sum_{k=1}^{m}a_kQ_k(x)x^{k!\deg Q_k}\,\)

と,その\(\,f(x)\,\)との差

\(\,B_m(x)\coloneqq f(x)-A_m(x)\,\)

をおきます。

\(f(x)=A_m(x)+B_m(x)\,\)なので,

\(\,f(x)^n=A_m(x)^n+nA_m(x)^{n-1}B_m(x)+\cdots+B_m(x)^n\,\)

と展開できます。

後ろの項を\(\,B_{m}^{(n)}(x)\coloneqq nA_m(x)^{n-1}B_m(x)+\cdots+B_m(x)^n\,\)とまとめることにすると,

\(\,f(x)^n=A_m(x)^n+B_{m}^{(n)}(x)\,\)

ですね。

よって

と書き直せます。

故に最後の等式の上の行の項を

\(\,A(x)\coloneqq g_n(x)A_m(x)^n+g_{n-1}(x)A_m(x)^{n-1}+\cdots+g_0(x)\,\)

下の行の項を

\(\,B(x)\coloneqq g_n(x)B_{m}^{(n)}(x)+g_{n-1}(x)B_{m}^{(n-1)}(x)+\cdots+g_1(x)B_{m}^{(1)}(x)\,\)

とさらにまとめると,\(\,f(x)=A(x)+B(x)\,\)ですので,この\(\,A(x),B(x)\,\)について調べましょう。

まず\(\,A(x)\,\)の各項\(\,g_{i}(x)A_m(x)^{i}\,\,(0\leq i\leq n)\,\)について

と続くので,

\(\,(m!+1)\deg Q_k \gt \displaystyle \max_{1\leq i\leq n}\deg g_i\,\)

を満たすように\(\,m\,\)を十分大きく取れば,\(\,\deg g_nA_{m}^{n}\,\)が最高次になります。

故にその最高次の項が残るので\(\,A(x)\not=0\,\)で,

\(\deg g_n \leq \displaystyle \max_{1\leq i\leq n}\deg g_i \lt (m!+1)\deg Q_k\,\)を用いればさらに,

\(\,\deg A\leq (n+1)(m!+1)\deg Q_m\,\)

と評価できます。

続いて\(\,B(x)\,\)について調べます。

\(B_m^{(i)}(x)\,\,(1\leq i\leq n)\,\)は\(\,B_m(x)\,\)を因数に持つことから,

\(\,\mathrm{ord\,}B_m^{(i)}\geq \mathrm{ord\,}B_m\geq (m+1)!\deg Q_{m+1}\,\)

です。

よって\(\,B(x)\,\)について

\(\,\mathrm{ord\,}B \geq (m+1)!\deg Q_{m+1}\,\)

と評価できます。

これを

\(\,\deg A\leq (n+1)(m!+1)\deg Q_m\,\)

と比べると,\(\,\dfrac{(m+1)!}{m!+1}\geq \dfrac{m+1}{2}\to \infty \,\,(m\to \infty)\,\)より,\(\,m\,\)が十分大きいとき

\(\,(n+1)(m!+1)\deg Q_m\lt (m+1)!\deg Q_{m+1}\,\)

が成り立ち,\(\,\mathrm{ord\,}B \gt \deg A\,\,(A(x)\not=0)\,\)ですので,

\(A(x)+B(x)\not=0\,\)となり,\(\,f(x)\,\)の超越性も示されました。\(\quad\square\)

余談ですが\(\,f(x)\in \mathbb{Q}[[x]]\,\)で,\(\,f(x)\,\)は開円板\(\,D\subset \mathbb{C}\,\)上で収束し,高々可算でない集合\(\,S\subset D\,\)上の値は代数的数になるものは存在しません。

なぜなら\(\,S\,\)上の値が代数的数になるとすると

\(\,S\subset \displaystyle\bigcup_{\alpha\in \overline{\mathbb{Q}}} f^{-1}(\alpha)\,\)

が成り立ちますが,\(\,f^{-1}(\alpha)\,\)は正則関数\(\,f(x)-\alpha\,\)の零点集合なので高々可算です。

故に\(\,\displaystyle\bigcup_{\alpha\in \overline{\mathbb{Q}}} f^{-1}(\alpha)\,\)も高々可算になり,\(\,S\,\)が高々可算でないことに矛盾するからです。

そのためここで紹介した「\(f(x)\,\)は\(\,\mathbb{Q}(x)\,\)上超越的\(\,\Rightarrow\,\)\(f(\alpha)\,\)は超越数」の反例は,この濃度の意味で最も強いものなります。

まとめ

今回の記事では超越的べき級数(transcendental power series)を解説いたしました。

今後マーラー関数などの超越的べき級数を利用して,値の超越性を示せたらと思います(難しいですが)。

もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#サイエンティクスでつぶやいていただけると,できる限り対応します。

ここまで読んでいただき,ありがとうございました。

補遺

\(\,d\,\)を\(\,2\,\)以上の整数とすると,
\(\,\displaystyle\prod_{k=0}^{\infty}(1-x^{d^k})\,\)は\(\,\mathbb{C}(x)\,\)上超越的である。

上の証明を確認しましょう。

\(f(x)\coloneqq\displaystyle\prod_{k=0}^{\infty}(1-x^{d^k})\,\)とおくと,明らかに

\(\,f(x^d)=\displaystyle\prod_{k=0}^{\infty}(1-x^{d^{k+1}})=\prod_{k=1}^{\infty}(1-x^{d^{k}})\,=\dfrac{1}{1-x}f(x)\,\)

という関係式が成り立つことを利用します。

\(f(x)\,\)は\(\,\mathbb{C}(x)\,\)上超越的でないとすると,

\(\,f(x)^n+a_{n-1}(x)f(x)^{n-1}+\cdots+a_0(x)=0\,\,(a_i(x)\in\mathbb{C}(x))\,\)

を満たします。

ただし\(\,n\,\)はこのようなもののうち最小であるものを取ってきます。

\(x\,\)を\(\,x^d\,\)に置き換え,関係式\(\,f(x^d)=\dfrac{1}{1-x}f(x)\,\)を用いると,

\(\,\biggl(\dfrac{f(x)}{(1-x)}\biggr)^n+a_{n-1}(x^d)\biggl(\dfrac{f(x)}{(1-x)}\biggr)^{n-1}+\cdots+a_0(x^d)=0\,\)

分母を払って

\(\,f(x)^n+a_{n-1}(x^d)(1-x)f(x)^{n-1}+\cdots+a_0(x^d)(1-x)^n=0\,\)

となります。

\(n\,\)の最小性から係数が一致する必要があるので,各\(\,0\leq m\leq n-1\,\)について

\(\,a_m(x)=a_m(x^d)(1-x)^{n-m}\,\)

が成り立ちます。

明らかに\(\,a_0(x),\ldots,a_{n-1}(x)\,\)の少なくとも一つは\(\,0\,\)でないので,以下では\(\,m\,\)として\(\,a_m(x)\not=0\,\)であるようなものを選んでも構いません。

このとき\(\,a_m(x)\in \mathbb{C}(x)\,\)より,

\(\,a_m(x)=\dfrac{p(x)}{q(x)},\,\,(p(x),q(x)\in \mathbb{C}[x],(p(x),q(x))=1)\,\)

と表せます。

よって先ほどの\(\,a_m(x)\,\)の等式に代入して分母を払うと,

\(\,p(x)q(x^d)=q(x)p(x^d)(1-x)^{n-m}\,\)

となります。

\((p(x^d),q(x^d))=1\,\)となるので,この式から\(\,p(x^d)\,\)が\(\,p(x)\,\)を割り切ることが分かります。

これは\(\,\deg p=0\,\)を意味するので,\(\,p(x)\in \mathbb{Q}\,\)となります。

故に\(\,p(x^d)=p(x)(\not=0)\,\)より,上の式は

\(\,q(x^d)=q(x)(1-x)^{n-m}\,\)

となります。

\(q(x)\,\)から\(\,(1-x)\,\)のべきをくくり出して,

\(\,q(x)=q_0(x)(1-x)^{l}\,\,(l\geq0,(1-x,q_0(x))=1)\,\)

と表すと,さらに先ほどの式は

\(\,(1-x^d)^l q_0(x^d)=(1-x)^l q_0(x)(1-x)^{n-m}\,\)

で,\(\,(1-x)^l\,\)で両辺を割ると,

\(\,(1+x+\cdots+x^{d-1})^l q_0(x^d)=q_0(x)(1-x)^{n-m}\,\)

となります。

両辺に\(\,1\,\)を代入して,\(\,d^lq_0(1)=0\,\)を得ますが,これは\(\,1-x\,\)が\(\,q_0(x)\,\)を割り切らないことに矛盾します。

したがって題意は示されました。\(\quad\square\)

参考文献

  • \([1]\) Kumiko Nishioka.“Mahler Functions and Transcendence”.1st Edition.Springer.1996.p.6
  • \([2]\) 西岡久美子.“超越数とはなにか 代数方程式の解にならない数たちの話”.初版.講談社.2015.194p.