こんにちは!半沢です!
今回の記事では代数的整数論におけるデデキント整域(Dedekind domain)について解説します。
前回の記事ではデデキント整域の定義を解説しましたが,今回はその性質・具体例を解説したいと思います。
ぜひ読んでいってください。
目次
性質
前回の記事で解説したように次の条件は同値なので,デデキント整域の定義は次のものとして話を進めます。
定義
次の同値な条件\(\,(\,\mathrm{I}\,)\sim (\mathrm{V})\,\)を一つでも満たすような整域をデデキント整域(Dedekind domain)と呼ぶ。
\((\,\mathrm{I}\,)\,\)\(\,0\,\)でないイデアル※が素イデアルの有限積に一意に分解される。
\((\mathrm{II})\,\)\(\,0\,\)でないイデアルが素イデアルの有限積に分解される(一意性は仮定しない)。
\((\mathrm{III})\,\)\(\,0\,\)でない任意のイデアルは可逆である。
\((\mathrm{IV})\,\)任意のイデアル\(\,\mathfrak{a},\mathfrak{b}\,\)について\(\,\mathfrak{a}\subseteq \mathfrak{b}\Leftrightarrow \mathfrak{b}\mid\mathfrak{a}\,\)となる。
\((\mathrm{V})\,\)次元\(\,1\,\)以下のネーター正規環である。
※整域自身は\(\,0\,\)個の素イデアルに分解されるとみなします。
PID\(\,\Leftrightarrow\,\)UFD
\(\,R\,\)をデデキント整域とすると,
\(R\,\)がPIDとなる\(\,\Leftrightarrow\,\)\(\,R\,\)がUFDとなる。
この性質は代数的整数論で出てくる整数環\(\,\mathcal{O}_K\,\)の類数\(\,h_K\,\)のイメージを与えてくれます。
類数の定義より明らかに\(\,h_K=1\Leftrightarrow\,\mathrm{PID}\,\)でしたね。
整数環は常にデデキント整域なので,上の性質と合わせると\(\,h_K=1\Leftrightarrow\,\mathrm{UFD}\,\)となります。
よって類数は素元の一意分解がどれくらい成り立つのかを表す尺度を表すと言えるのです。
そのためわざわざこの性質を取り上げました。
それでは証明です。
\(\mathrm{PID}\Rightarrow \mathrm{UFD}\,\)は常に成り立つので逆を示していきます。
\(\mathfrak{p}\,\)を\(\,(0)\,\)でない任意の素イデアルとします。
任意の\(\,0\,\)でない真のイデアルは素イデアル分解できるので,これが単項イデアルになることを示せば証明終了です。
\(\mathfrak{p}\not=(0)\,\)より\(\,a(\not=0)\in \mathfrak{p}\,\)が取れます。
\(\mathfrak{p}\not=R\,\)なので,この\(\,a\,\)は単元ではありません。
よってUFDの仮定から素元分解出来て\(\,a=p_1\cdots p_n\,\)となります(\(\,p_1,\ldots,p_n\,\)は素元)。
\(a=p_1\cdots p_n\in \mathfrak{p}\,\)で\(\,\mathfrak{p}\,\)は素イデアルなので,ある番号\(\,i\,\)が存在して\(\,p_i\in \mathfrak{p}\,\)となります。
よって\(\,(p_i)\subseteq\mathfrak{p}\,\)となりますが,(次元が\(\,1\,\)以下だから)素イデアルは極大なので\(\,\mathfrak{p}=(p_i)\,\)となり,題意は示されました。\(\quad\square\)
素イデアル分解に関する性質
性質\(\,[1]\,\)
デデキント整域内の\(\,(0)\,\)でないイデアル\(\,\mathfrak{a},\mathfrak{b}\,\)について
\(\,\mathfrak{a}=\mathfrak{p}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{e_n}\qquad\mathfrak{b}=\mathfrak{p}_1^{f_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{f_n}\,\)
と素イデアル分解したとする(\(\,e_i,f_i\,\,(1\leq i\leq n)\,\)は非負整数,\(\,\mathfrak{p}_1,\ldots,\mathfrak{p}_n\,\)は互いに異なる素イデアル)。
※任意の\(\,(0)\,\)でないイデアル\(\,\mathfrak{a},\mathfrak{b}\,\)は必要であれば素イデアルの零乗を付け加えることでこの形にできる。
\((1)\) \(\mathfrak{a}\subseteq \mathfrak{b}\Leftrightarrow\) \(\,\mathfrak{b}\mid\mathfrak{a}\,\)\(\,\Leftrightarrow f_i\leq e_i\,\, (1\leq i\leq n)\,\)
\((2)\) \(\mathfrak{a}+\mathfrak{b}=(\mathfrak{a},\mathfrak{b})=\mathfrak{p}_1^{\min\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\min\{e_n,f_n\}}\)。
よって\(\,\mathfrak{a},\mathfrak{b}\,\)が互いに素\(\,\Leftrightarrow\,\)共通の素イデアル因子を持たないとなる。
\((3)\) \(\mathfrak{a}\cap\mathfrak{b}=\mathfrak{p}_1^{\max\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\max\{e_n,f_n\}}\,\)
整数における素因数分解のような性質が素イデアル分解でも成り立つということです。
また\(\,(2)\,\)はイデアルの和が“最大公約イデアル”を,
\((3)\,\)はイデアルの共通部分が“最小公倍イデアル”を表していることを意味します。
それでは証明です。
\((1)\,\)の\(\mathfrak{a}\subseteq \mathfrak{b}\Leftrightarrow\) \(\,\mathfrak{b}\mid\mathfrak{a}\,\)はそもそもデデキント整域の定義に含まれているので示す必要はありません。
よってまず\(\,f_i\leq e_i\,\)を仮定しましょう。
するとイデアル\(\,\mathfrak{c}\coloneqq \mathfrak{p}_1^{e_1-f_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{e_n-f_n}\,\)を取ってくれば\(\,\mathfrak{a}=\mathfrak{b}\mathfrak{c}\,\)で\(\,\mathfrak{b}\mid\mathfrak{a}\,\)となります。
逆に\(\,\mathfrak{b}\mid\mathfrak{a}\,\)ならイデアル\(\,\mathfrak{c}\,\)が存在して\(\,\mathfrak{a}=\mathfrak{b}\mathfrak{c}\,\)となりますが,\(\,\mathfrak{c}\,\)を素イデアル分解し,一意性から両辺の素イデアルの指数を比較することで\(\,f_i\leq e_i\,\)を得ます。
よって\(\,(1)\,\)は示されました。
続いて\(\,(2)\,\)ですが\(\,\mathfrak{p}_1^{\min\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\min\{e_n,f_n\}}\supseteq\mathfrak{a},\mathfrak{b}\,\)は\(\,(1)\,\)より言えます。
よって\(\,\mathfrak{a}+\mathfrak{b}\,\)は\(\,\mathfrak{a},\mathfrak{b}\,\)を含む最小のイデアルなので\(\,\mathfrak{p}_1^{\min\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\min\{e_n,f_n\}}\supseteq \mathfrak{a}+\mathfrak{b}\,\)です。
故に\(\,(1)\,\)から\(\,\mathfrak{a}+\mathfrak{b}\,\)を素イデアル分解すると,これらの素イデアルの積として,非負整数\(\,g_1,\ldots,g_n\,\)を用いて
\(\,\mathfrak{a}+\mathfrak{b}=\mathfrak{p}_1^{g_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{g_n}\,\)
と書けます。
\(\mathfrak{a}+\mathfrak{b}\supseteq \mathfrak{a},\mathfrak{b}\,\)と\(\,(1)\,\)より\(\,g_i\leq \min\{e_i,f_i\}\,\)で,再び\(\,(1)\,\)より\(\,\mathfrak{a}+\mathfrak{b}\supseteq \mathfrak{p}_1^{\min\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\min\{e_n,f_n\}}\,\)となります。
よって\(\,\mathfrak{a}+\mathfrak{b}=\mathfrak{p}_1^{\min\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\min\{e_n,f_n\}}\,\)となります。
最後に\(\,(3)\,\)です。
\(\mathfrak{a},\mathfrak{b}\supseteq\mathfrak{p}_1^{\max\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\max\{e_n,f_n\}}\,\)は明らかで,\(\,\mathfrak{a}\cap\mathfrak{b}\,\)は\(\,\mathfrak{a},\mathfrak{b}\,\)を含む最大のイデアルなので,\(\,\mathfrak{a}\cap\mathfrak{b}\supseteq \mathfrak{p}_1^{\max\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\max\{e_n,f_n\}}\,\)は分かります。
よって\(\,(1)\,\)から素イデアル分解すると
\(\,\mathfrak{a}\cap\mathfrak{b}=\mathfrak{p}_1^{g_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{g_n}\,\)
と書けます。
\(\mathfrak{a},\mathfrak{b}\supseteq\mathfrak{a}\cap\mathfrak{b}\,\)と\(\,(1)\,\)より\(\,g_i\geq \max\{e_i,f_i\}\,\)で,再び\(\,(1)\,\)より\(\,\mathfrak{a}\cap\mathfrak{b}\subseteq \mathfrak{p}_1^{\max\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\max\{e_n,f_n\}}\,\)となります。
したがって\(\,\mathfrak{a}\cap\mathfrak{b}= \mathfrak{p}_1^{\max\{e_1,f_1\}}\cdots\mathfrak{p}_n^{\max\{e_n,f_n\}}\,\)となり証明終了です。\(\quad\square\)
半局所デデキント整域\(\,\Rightarrow\,\)PID
性質\(\,[2]\,\)
半局所※デデキント整域\(\,\Rightarrow\,\)PID
※半局所環とは極大イデアルが有限個であるような環です。
それでは証明です。前提条件を満たす整域を\(\,R\,\)と書くことにします。
\((0)\,\)でない任意の真のイデアル\(\,\mathfrak{a}\,\)が単項イデアルであることを示せば良いです。
素イデアルが有限個ですので,それら全て\(\,\mathfrak{p}_1,\ldots,\mathfrak{p}_n\,\)をおくと,非負整数\(\,e_1,\ldots,e_n\,\)を用いて
\(\,\mathfrak{a}=\mathfrak{p}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{e_n}\,\)
と書けます。
ここで素イデアル分解の一意性から\(\,\mathfrak{p}_i^{e_i}\setminus\mathfrak{p}_i^{e_i+1}\not=\emptyset\,\)であるので,\(r_i\in\mathfrak{p}_i^{e_i}\setminus\mathfrak{p}_i^{e_i+1}\)となる元\(\,r_i\,\)を各\(\,i\,\)から取ってきます。
中国剰余定理より任意の\(\,i\,\)で\(\,a\equiv r_i \pmod{\mathfrak{p}_i^{e_i+1}}\,\)となるような元\(\,a\in R\,\)が存在します。
このとき\(\,a\not\in \mathfrak{p}_i^{e_i+1}\,\)なので,\(\,(a)\,\)の素イデアル分解において\(\,\mathfrak{p}_i\,\)に関する指数は性質\(\,[1]\,\)の\(\,(1)\,\)から\(\,e_i\,\)以下となります。
また\(\,r_i\in\mathfrak{p}_i^{e_i}\,\)なので合同式を下ろすことで\(\,a\equiv 0\pmod{\mathfrak{p}_i^{e_i}}\,\),すなわち\(\,a\in \mathfrak{p}_i^{e_i}\,\)となります(よって\(\,a\in \mathfrak{a}\,\))。
よって同様に\(\,(a)\,\)を素イデアル分解したときの\(\,\mathfrak{p}_i\,\)に関する指数は\(\,e_i\,\)以上ともなるので,その指数は\(\,e_i\,\)に一致することが分かります。
\(\mathfrak{p}_1,\ldots,\mathfrak{p}_n\,\)で\(\,R\,\)内の素イデアルはすべてですので,他に素イデアルが現れることもなく\(\,(a)=\mathfrak{p}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{e_n}=\mathfrak{b}\,\)となり証明終了です。\(\quad\square\)
真の剰余環はイデアルが有限個のPIR
性質\(\,[3]\,\)
デデキント整域の真の剰余環はイデアルが有限個のPIR。
あくまでもPIR(principal ideal ring)なので,整域ではない可能性もあります(\(\,\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\,\)がその例)。
それでは証明です。問題のデデキント整域を\(\,R\,\)と書くことにします。
\((0)\,\)でないイデアル\(\,\mathfrak{a}\subseteq R\,\)の真の剰余環\(\,R/\mathfrak{a}\,\)を考えましょう。
素イデアル分解して,非負整数\(\,e_1,\ldots,e_n\,\)を用いて
\(\,\mathfrak{a}=\mathfrak{p}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{e_n}\,\)
と書けるとします。
ここで\(\,R/\mathfrak{a}\,\)のイデアルは\(\,\mathfrak{b}\supseteq\mathfrak{a}\,\)となる\(\,R\,\)のイデアル\(\,\mathfrak{b}\,\)に対応するのでした。
この\(\,\mathfrak{b}\,\)は\(\,\mathfrak{b}\supseteq\mathfrak{a}\,\)なので,
\(\,\mathfrak{b}=\mathfrak{p}_1^{f_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{f_n}\,\)
と素イデアル分解できます。
ただし\(\,f_1,\ldots,f_n\,\)は非負整数で\(\,f_i\leq e_i\,\,(1\leq i\leq n)\,\)です。
不等式より\(\,(f_1,\ldots,f_n)\,\)の取り得る値は有限個なので,\(\,R/\mathfrak{a}\,\)のイデアルが有限個であることがまず分かります。
また性質\(\,[2]\,\)の証明と全く同様にして各\(\,i\,\)について,\(\,\mathfrak{p}_i\,\)に関する指数は\(\,f_i\,\)に一致するような元\(\,b\in\mathfrak{b}\,\)が取れます。
これを用いてイデアル\(\,\mathfrak{a}+(b)\,\)を考えると,まず\(\,\mathfrak{a}+(b)\supseteq \mathfrak{a}\,\)より,その素イデアル分解の素因子には\(\,\mathfrak{p}_1,\ldots,\mathfrak{p}_n\,\)しかでできません。
また\(\,\mathfrak{a}+(b)\,\)の素因子\(\,\mathfrak{p}_i\,\)の指数は性質\(\,[1]\,\)の\(\,(2)\,\)より,\(\,\mathfrak{a},(b)\,\)の指数の小さい方である\(\,f_i\,\)になります(\(\,f_i\leq e_i\,\)に注意)。
よって\(\,\mathfrak{a}+(b)=\mathfrak{p}_1^{f_1}\cdots\mathfrak{p}_n^{f_n}=\mathfrak{b}\,\)となります。
これに対応する剰余環\(\,R/\mathfrak{a}\,\)のイデアルは単項イデアル\(\,(\bar{b})\,\)なので証明終了です。\(\quad\square\)
イデアルは\(\,2\,\)元生成
性質\(\,[4]\,\)
デデキント整域の任意のイデアルは\(\,2\,\)元生成である。
かなり面白い性質だと個人的には思います。
証明は性質\(\,[3]\,\)からすぐに示せます。
任意のイデアル\(\,\mathfrak{a}\,\)から,元\(\,a\not=0\,\)を取ってくると\(\,(a)\subseteq \mathfrak{a}\,\)です。
性質\(\,[3]\,\)より剰余環\(\,R/(a)\,\)上では\(\,\bar{\mathfrak{a}}\,\)は単項イデアルなので,ある元\(\,b\,\)が存在して\(\,\bar{\mathfrak{a}}=(\bar{b})\,\)となります。
これは\(\,\mathfrak{a}=(a,b)\,\)であることを意味するので,題意は示されました。\(\quad\square\)
具体例
デデキント整域となるようなものとして,もちろん代数的整数論の主役である整数環が挙げられます。
またPIDは一般的にデデキント整域となることも知られています。
これらの厳密な証明は改めて別の記事にする予定ですので,そちらをお待ちください。
まとめ
今回の記事ではデデキント整域(Dedekind domain)を解説いたしました。
もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
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ここまで読んでいただき,ありがとうございました。
参考文献
- \([1]\) 山崎 圭次郎.環と加群.オンデマンド出版.岩波書店.2020出版.p.388-390.