こんにちは!半沢です!
今回の記事ではリー代数における構造定数(structure constants)について解説します。
「構造定数が一致する\(\,\Leftrightarrow\,\)リー代数が同型」が成り立つように,
構造定数は,その名の通りリー代数の構造を決定する定数です。
証明を付けて詳しく解説しているので,読んでいただけると幸いです。
目次
構造定数(structure constants)
定義
定義
\(L\,\)を体\(\,K\,\)上の\(\,n\,\)リー代数とし,その基底の一つを\(\,\{x_1,\ldots,x_n\}\,\)とする。
このとき各\(\,[x_i,x_j]\,\)をこの基底で展開すると,
\[[x_i,x_j]=\sum_{k=1}^n a_{ij}^{k}x_k,\]となる定数\(\,a_{ij}^{k}\in K\,\)が定まる。
この\(\,a_{ij}^{k}\,\,(1\leq i,j,k\leq n)\,\)を基底\(\,\{x_1,\ldots,x_n\}\,\)に関する\(\,L\,\)の構造定数(structure constants)と呼ぶ。
\([x_i,x_i]=0,[x_i,x_j]=-[x_j,x_i]\,\)であることから,
\(a_{ii}^{k}=0,a_{ij}^{k}=-a_{ji}^{k}\,\)が成り立つことは押さえておきましょう。
この関係から構造定数を求めるには,すべての\(\,[x_i,x_j]\,\)を計算する必要はないことが分かります。
練習として外積リー代数\(\,\mathbb{R}_{\wedge}^{3}\,\)の標準基底\(\,\{\bm{e}_1,\bm{e}_2,\bm{e}_3\}\,\)に関する構造定数を求めましょう。
\[\begin{align*}\bm{e}_1\times \bm{e}_2=\bm{e}_3 =&\, 0\cdot \bm{e}_1+0\cdot\bm{e}_2+1\cdot\bm{e}_3, \\ \bm{e}_2\times \bm{e}_3=\bm{e}_1 =&\, 1\cdot \bm{e}_1+0\cdot\bm{e}_2+0\cdot\bm{e}_1, \\ \bm{e}_3\times \bm{e}_1=\bm{e}_2 =&\, 0\cdot \bm{e}_1+1\cdot\bm{e}_2+0\cdot\bm{e}_3,\end{align*}\]
であるので,対応して
\[\begin{align*}&a_{12}^{1}=0,\quad a_{12}^{2}=0,\quad a_{12}^{3}=1, \\ &a_{23}^{1}=1,\quad a_{23}^{2}=0,\quad a_{23}^{3}=0, \\ &a_{31}^{1}=0,\quad a_{31}^{2}=1,\quad a_{31}^{3}=0,\end{align*}\]
と求められます。
全部で\(\,3^3=27\,\)個の構造定数\(\,a_{ij}^k\,\)がありますが,関係式\(\,a_{ii}^{k}=0,a_{ij}^{k}=-a_{ji}^{k}\,\)を使えば上の式から,他の全ての構造定数も求めることができます。
例えば\(\,a_{11}^{1}=0,\,\,a_{21}^{3}=-a_{12}^{3}=-1\,\)などです。
よって外積リー代数\(\,\mathbb{R}^3\,\)の構造定数は分かりました。
構造定数が一致する\(\,\Leftrightarrow\,\)リー代数が同型
命題1
体\(\,K\,\)上\(\,n\,\)次元リー代数\(\,L_1,L_2\,\)について,\(\,L_1\cong L_2\,\)であることと,
\(L_1\,\)のある基底\(\,B_1\,\)に関する構造定数と,\(\,L_2\,\)のある基底\(\,B_2\,\)に関する構造定数が一致することは同値である。
この命題より,まさに構造定数はリー代数の構造を司る定数というわけですね。
最初に上の命題1の応用として,可換リー代数の分類を紹介します。
可換なリー代数\(\,A\,\)では\(\,[a,b]=0\,\,(\forall a,b\in A)\,\)よりすべての構造定数は\(\,0\,\)です。
よって\(\,n\,\)次元可換リー代数同士は命題1から互いに同型となります。
また体\(\,K\,\)上\(\,n\,\)次元可換リー代数は\(\,n\,\)ベクトル空間\(\,K^n\,\)に\(\,[\cdot,\cdot]\,\)を
\[[x,y]=0\quad (x,y\in K^n),\]
と定めることで構成できます(※これがリー代数の定義を満たすことは簡単に確認できる)。
つまり\(\,n\,\)次元可換リー代数は少なくとも一つ存在します。
まとめると次の系を得ます。
系
体\(\,K\,\)上の可換リー代数は同型を除いてただ一つである。
このようにリー代数の分類を行う際に構造定数は役立ちます。
それでは命題1の証明です。最初は\(\,L_1\cong L_2\,\)を仮定して,構造定数が一致することを示しましょう。
\(L_1\,\)の基底を適当に\(\,B_1=\{x_1,\ldots,x_n\}\,\)と取ってきます。
同型\(\,\varphi:L_1\cong L_2\,\)を利用して,\(\,L_2\,\)の基底として\(\,B_2=\{\varphi(x_1),\ldots,\varphi(x_n)\}\,\)を取ります。
基底\(\,B_1,B_2\,\)に関する\(\,L_1,L_2\,\)の構造定数を\(\,a_{ij}^k,b_{ij}^k\,\)と書くことにします。
このとき
\[\begin{align*}&\,\sum_{k=1}^n b_{ij}^k\varphi(x_k) =[\varphi(x_i),\varphi(x_j)] =\varphi([x_i,x_j]) \\ =&\, \varphi\Biggl(\sum_{k=1}^n a_{ij}^k x_k\Biggr) =\sum_{k=1}^{n} a_{ij}^k \varphi(x_k),\end{align*}\]
と変形できるので,係数比較して\(\,a_{ij}^k=b_{ij}^k\,\,(1\leq i,j,k\leq n)\,\)を得ました。
今度は逆に\(\,L_1\,\)のある基底\(\,B_1=\{x_1,\ldots,x_n\}\,\)と,\(\,L_2\,\)のある基底\(\,B_2=\{y_1,\ldots,y_n\}\,\)を取ると,それぞれの構造定数が一致したとします。
つまり\(\,a_{ij}^k\in K\,\)を用いて両方とも,
\[\begin{align*}[x_i,x_j]=&\,\sum_{k=1}^n a_{ij}^kx_k, \\ [y_i,y_j]=&\,\sum_{k=1}^n a_{ij}^ky_k,\end{align*}\]
と書けています。
このとき,線形写像としての同型\(\,\varphi:L_1\to L_2\,\)で,\(\,\varphi(x_i)=y_i\,\)となるものを取れます。
この\(\,\varphi\,\)は基底のブラケット\(\,[x_i,x_j]\,\,(1\leq i,j\leq n)\,\)において,線形性から
\[\begin{align*}&\,\varphi([x_i,x_j])=\varphi\Biggl(\sum_{k=1}^n a_{ij}^k x_k\Biggr)=\sum_{k=1}^n a_{ij}^ky_k \\ =&\,[y_i,y_j]=[\varphi(x_i),\varphi(x_j)],\end{align*}\]
が成り立ちます。
よって\(\,\varphi\,\)はリー代数としての同型となり,\(\,L_1\cong L_2\,\)が示されました。
以上より証明終了です。\(\quad\square\)
リー代数を定義するために構造定数に課される必要十分条件
リー代数を定めれば,もちろん構造定数が定まりますが,
逆にどんな定数\(\,a_{ij}^k\,\)の組なら,それを構造定数とするようなリー代数を構成することができるでしょうか。
この問いに対する答えが次の命題です。
命題2
体\(\,K\,\)上\(\,n\,\)次元線形空間\(\,L\,\)について,その基底の一つを\(\,\{e_1,\ldots,e_n\}\,\)とし,\(\,K\,\)の定数\(\,a_{ij}^k\,\)が与えられているとする。
双線型\([\cdot,\cdot]:L\times L\to L\,\)を任意の
\[x=\sum_{k=1}^n \alpha_k e_k\quad y=\sum_{k=1}^n \beta_ke_k\quad \in L,\]に対し,
\[[x,y]\coloneqq \sum_{k=1}^n\Biggl(\sum_{i,j=1}^n a_{ij}^k \alpha_i\beta_j\Biggr)e_k,\]で定める。
この\([\cdot,\cdot]\)に関して\(\,L\,\)がリー代数となることと,
定数\(\,a_{ij}^k\,\)が
\[\begin{gather}a_{ii}^k=0,\qquad a_{ij}^k=-a_{ji}^k, \tag{A1}\\ \sum_{m=1}^n (a_{jk}^m a_{im}^l+a_{ki}^m a_{jm}^l+a_{ij}^m a_{km}^l)=0\quad (1\leq i,j,k,l\leq n),\tag{A2}\end{gather}\]を満たすことは同値である。
定数\(\,a_{ij}^k\,\)が,上の\(\,a_{ij}^k\,\)に関する条件を満たせば,それを構造定数とするリー代数を構成できるということですね。
証明は根気強くやる必要あります。
線形空間\(\,L\,\)がリー代数となるためには,
\[\begin{gather} [x,x]=0, \tag{L1}\\ [x,[y,z]]+[y,[z,x]]+[z,[x,y]]=0,\tag{L2}\end{gather}\]
の二つの条件\(\,(\mathrm{L1}),(\mathrm{L2})\,\)を満たすことが必要十分条件です。
これらの条件が\(\,(\mathrm{A1}),(\mathrm{A2})\,\)に同値であることを示せば良いです。
まず条件\(\,(\mathrm{L1})\Leftrightarrow (\mathrm{A1})\,\)を示します。
条件\(\,(\mathrm{L1})\,\)は
\[[x,x]=\sum_{k=1}^n\Biggl(\sum_{i,j=1}^n a_{ij}^k \alpha_i\alpha_j\Biggr)e_k=0\quad(\forall \alpha_i\in K),\]
と同値です。
係数比較してさらに
\[\sum_{i,j=1}^n a_{ij}^k \alpha_i\alpha_j=0\quad (\forall \alpha_i\in K,1\leq k\leq n)\]
と同値です。
\(\alpha_i=\delta_{ii_0}\,\)とすると(\(\, i_0\,\)は\(\,1\,\)から\(\,n\,\)までの整数を任意に固定),上の式から\(\,a_{i_{0}i_{0}}^k=0\,\)が導かれます。
固定していた\(\,i_0\,\)の任意性から,\(\,a_{ii}^{k}=0\,\,(1\leq i,k\leq n)\,\)が得られます。
また今度は\(\,\alpha_i=\delta_{ii_0}+\delta_{ij_0}\,\,(i_0\not=j_0)\,\)とすると,\(\,a_{ii}^k=0\,\)を使えば,\(\,a_{i_0j_0}^k=-a_{j_0i_0}^k\,\),
すなわち\(\,a_{ij}^k=-a_{ij}^k\,\,(1\leq i,j,k\leq n)\,\)を得ます。
まとめると\(\,(\mathrm{L1})\Rightarrow (\mathrm{A1})\,\)を示しました。
逆に\(\,a_{ii}^k=0,a_{ij}^k=-a_{ji}^k\Rightarrow \displaystyle\sum_{i,j=1}^n a_{ij}^k \alpha_i\alpha_j=0\,\)は簡単な式変形より分かるので,これまでの同値変形から\(\,(\mathrm{L1})\Leftrightarrow (\mathrm{A1})\,\)が言えました。
後は\(\,(\mathrm{L2})\Leftrightarrow (\mathrm{A2})\,\)を示しましょう。
\(z\in L\,\)を\(\,z=\displaystyle\sum_{k=1}^n \gamma_k e_k\,\)と表示すると,
\[\begin{align*}&\,[x,[y,z]] \\ =&\, \sum_{i,j,k=1}^n\alpha_i\beta_j\gamma_k[e_i,[e_j,e_k]] \\ =&\, \sum_{i,j,k=1}^{n} \alpha_i\beta_j\gamma_k\Biggl[e_i,\sum_{m=1}^n a_{jk}^me_m\Biggr] \\ =&\, \sum_{i,j,k,m=1}^n\alpha_i\beta_j\gamma_k a_{jk}^m [e_i,e_m] \\ =&\,\sum_{i,j,k,l,m=1}^n \alpha_i\beta_j\gamma_k a_{jk}^m a_{im}^{l} e_l.\end{align*}\]
同様に\(\,[y,[z,x]],[z,[x,y]]\,\)も計算できるので,ヤコビ恒等式\(\,(\mathrm{L2})\,\)は
\[\begin{align*}&\,[x,[y,z]]+[y,[z,x]]+[z,[x,y]]=0\quad (\forall x,y,z\in K) \\ \Leftrightarrow &\, \sum_{i,j,k,l,m=1}^n (\alpha_i\beta_j\gamma_k a_{jk}^m a_{im}^{l}+\beta_i\gamma_j\alpha_k a_{jk}^m a_{im}^{l}+\gamma_i\alpha_j\beta_k a_{jk}^m a_{im}^{l})e_l=0 \\ \Leftrightarrow &\,\sum_{i,j,k,m=1}^n \alpha_i\beta_j\gamma_k a_{jk}^m a_{im}^{l}+\sum_{i,j,k,m=1}^n \alpha_k\beta_i\gamma_j a_{jk}^m a_{im}^{l}+\sum_{i,j,k,m=1}^n\alpha_j\beta_k\gamma_i a_{jk}^m a_{im}^{l}=0 \quad(1\leq l\leq n) \\ \Leftrightarrow &\,\sum_{i,j,k,m=1}^n \alpha_i\beta_j\gamma_k a_{jk}^m a_{im}^{l}+\sum_{i,j,k,m=1}^n \alpha_i\beta_j\gamma_k a_{ki}^m a_{jm}^{l}+\sum_{i,j,k,m=1}^n \alpha_i\beta_j\gamma_k a_{ij}^ma_{km}^l=0 \\ \Leftrightarrow &\,\sum_{i,j,k,m=1}^{n} (a_{jk}^m a_{im}^l + a_{ki}^m a_{jm}^l +a_{ij}^ma_{km}^l)\alpha_i\beta_j\gamma_k=0 \quad (\forall\alpha_i,\beta_j,\gamma_k\in K, 1\leq l\leq n)\\ \Leftrightarrow &\, \sum_{m=1}^{l}(a_{jk}^m a_{im}^l + a_{ki}^m a_{jm}^l +a_{ij}^ma_{km}^l)=0\quad (1\leq i,j,k,l\leq n), \end{align*}\]
と同値変形されるので,\(\,(\mathrm{L2})\Leftrightarrow (\mathrm{A2})\,\)も示せました。
したがって題意は示されました。\(\quad\square\)
まとめ
今回の記事では構造定数(structure constants)を解説いたしました。
命題2の証明のヤコビの恒等式\(\,(\mathrm{L2})\,\)の同値変形の\(\,\TeX\,\)打ちが大変でした。
もし「説明がわかりにくい」などご要望・ご感想がありましたら,
X(旧:Twitter)で#サイエンティクスでつぶやいていただけると,できる限り対応します。
ここまで読んでいただき,ありがとうございました。
参考文献
- \([1]\) Karin Erdmann and Mark J. Wildon.“Introduction to Lie Algebras”,1st ed., ebook, Springer London.Published 2006,pp.7–8.
- \([2]\) 佐武一郎.“リー環の話”.第1版,日本評論社,1987出版,pp.20–21.